一眼レフカメラやミラーレスカメラの交換レンズを選んでいる時、「最大撮影倍率」という語句を目にします。
最大撮影倍率は、スペック表・仕様表には必ず記載されていますが、わかりにくい用語の1つです。
この記事では、最大撮影倍率とは何なのかを説明します。最大撮影倍率の意味だけではなく、計算方法や最短撮影距離・焦点距離との関係についても説明します。
最大撮影倍率とは(概要)
最大撮影倍率とは、
「最短撮影距離で撮影した時に、被写体をどこまで大きく写せるかを示す指標」
です。
最大撮影倍率は、0.2倍、1倍などと表され、数字が大きいほど(1倍に近いほど)、被写体を大きく撮影できます。
撮影される被写体の大きさについて、数値で明確にできる指標です。以下で、掘り下げて説明します。
最短撮影距離と被写体が写る大きさ
最大撮影倍率は、「最短撮影距離で撮影した時」と説明しました。「最短撮影距離」がポイントです。
ただの「撮影距離」は、カメラと被写体の間の距離です。これは、そのまんまですね。
この撮影距離。1つ厄介なことがあるんです。それは、撮影距離が短すぎると、ピントを合わせて撮影ができないのです。
例えば、被写体ぎりぎりまで近づいてシャッターボタンを半押ししても、「ピピッ」という合焦音が鳴りません。その結果、ファインダー内や背面液晶に映る被写体は、ぼやけた状態になります。
ピントを合わせるには、レンズごとに決められた最低限の撮影距離が必要です。ピント合わせが出来て、なおかつ、最も短い撮影距離を「最短撮影距離」といいます。
言い方を変えると、どこまで被写体に近づいて撮影できるかは、最短撮影距離によります。
最短撮影距離は、最も被写体に近づけるわけですから、写る被写体の大きさが最大になります。
最大撮影倍率が必要な理由
「最短撮影距離で撮影すると、被写体を最大の大きさで写せる」ということはわかりました。でも、ここで問題が。
例えば、「このレンズ、被写体をとても大きく写せるんだ」って言われたとします。
そう言われたら、「とても大きくって、どれくらい?」って思いませんか?大小の感じ方は、人により異なります。
そんな時、最大撮影倍率によって、誰が見ても、数値で大きさが明確にわかります。
最大撮影倍率の計算方法
倍率というからには、二つのものを比べなくてはなりません。
例えば、数字の10と5を比べたとします。その場合、10の1/2倍(0.5倍)は5と言えますよね?
最大撮影倍率の倍率も考え方は似ていて、大きさを比較して倍率を算出します。
具体的に、最大撮影倍率は、以下の2つを比べた時の倍率で、以下のaをbで割った数字です。
- カメラのセンサーの実寸
- 最短撮影距離で写る被写体の実寸範囲
カメラのセンサーは、レンズを外すと見える、四角くて、緑っぽくキラキラしている部分です。一眼レフカメラの場合、ミラーを上げないと見えません。センサーは、画像情報を記録する場所です。
センサーは大きさによって名前が付けられていて、フルサイズ、APS-C、マイクロフォーサーズなどがあります。
例えば、センサーサイズが横3センチ×縦2センチのカメラがあるとしましょう。このカメラを使って、最短撮影距離で横に置いた定規を撮影します。
定規の0センチから3センチのメモリまでを撮影できたとすると・・・。
- カメラのセンサーの実寸→横3センチ
- 最短撮影距離で写る被写体の実寸→横3センチ
aをbで割るので、3センチ(センサー)/3センチ(定規)=1。つまり、最大撮影倍率は1倍となります。
一方、同じセンサーサイズのカメラで、最短撮影距離で撮影できた定規の実寸が0センチから6センチのメモリまでだったとすると・・・。
- カメラのセンサーの実寸→横3センチ
- 最短撮影距離で写る被写体の実寸→横6センチ
aをbで割るので、3センチ(センサー)/6センチ(定規)=0.5。つまり、最大撮影倍率は0.5倍となります。
冒頭の最大撮影倍率の概要で触れた通り、最大撮影倍率が大きい方が、被写体を大きく撮影できることになります。
最大撮影倍率が分かれば、誰もが「どれくらいの大きさに撮影できるのか」が具体的に分かります。
センサーサイズと最大撮影倍率の関係
もし同じレンズをセンサーサイズが異なるカメラに装着して比較したらどうなるでしょうか?
結論としては、
- 同じレンズなので、最大撮影倍率は変わらない
- でも、センサーサイズが小さいカメラほど、大きく写せる
ことになります。
フルサイズセンサーのカメラで撮影した場合
メーカーや機種によって誤差の範囲で異なりますが、フルサイズセンサーのサイズは横36.0mm×縦24.0mmです。
最大撮影倍率が1倍のレンズで、定規を撮影したとすると、定規の0mmから36.0mmまでが写せます。
センサーは同じまま、最大撮影倍率が0.5倍のレンズで撮影すると、定規の0mmから72.0mmまでが写ります。
APS-Cセンサーのカメラで撮影した場合
APS-Cセンサーのサイズを約22.3mm×14.9mmとしましょう。
(こちらもメーカーや機種で、誤差の範囲で差異があります)
最大撮影倍率が1倍のレンズで、定規を撮影したとすると、定規の0mmから22.3mmまでが写せます。
センサーは同じまま、最大撮影倍率が0.5倍のレンズで撮影すると、定規の0mmから44.6mmまでが写ります。
最大撮影倍率と焦点距離の関係
焦点距離が長い、つまり、望遠であるほど、被写体を大きく撮影できると思ったことはありませんか?カメラを始めたばかりの頃、僕はそう思っていましたが、それは間違いです。
例えば、広角レンズと望遠レンズを使って、同じ場所から、同じ被写体を撮影したとします。すると、当然、望遠レンズで撮影した方が被写体は大きく写ります。
では、被写体に出来るだけ近づいて良いと言われたら、どうでしょうか。
望遠レンズの方が、最短撮影距離が長いんです。だから、被写体にあまり近づけない。
一方、広角レンズの方が、最短撮影距離が短い。だから、被写体にグッと近づけます。
よって、焦点距離と最短撮影距離の組み合わせがどのようになるかで、どちらのレンズが被写体を大きく写せるか(最大撮影倍率が高いか)が変わってきます。
撮影距離は関係なしに、とにかく被写体を大きく撮影したいということであれば、望遠かどうかではなく、最大撮影倍率をまず確認することが重要です。
高い最大撮影倍率が必要なシーン
マクロ撮影と呼ばれる、非常に小さい生物やモノを撮影する時に必要になります。
例えば、アリとかてんとう虫など、小指よりも小さいような被写体とか。
僕自身はマクロ撮影はしないですが、肉眼で見えない世界が見えるので、面白そうだと思います。
最大撮影倍率とトリミングの関係
身も蓋もない話ですが、最大撮影倍率が低いレンズで撮影しても、画像をトリミングすれば大きく出来ます。
トリミングをすると画素数が落ちるので注意が必要ですが、大きな画像が必要なければ問題ないです。
例えば、以下を比べたら、必ずしも最大撮影倍率が高い方が有利とは言えません。
- 画素数が小さいカメラと最大撮影倍率が高いレンズで撮影
- 画素数が大きいカメラで最大撮影倍率が低いレンズで撮影。撮影後にトリミング
もしマクロ撮影のように、とにかく被写体を大きく撮影したいと考えても、必要な画像の大きさや画像の用途を考えると、必ずしも最短撮影倍率が高いレンズが必要とは言えません。
まとめ
被写体を小さく撮影することは、どのレンズでも理論上は可能です。なぜならば、スペースさえあれば、被写体からどんどん離れれば良いので、撮影距離を無限に長くできるからです。
一方で、撮影距離を短くすることは、無限にできないため、最大撮影倍率によって、どこまで大きく写せるかを明確にしています。
小さく撮影するのと違って、大きく撮影する方が難易度が高いので、最大撮影倍率だけを見た場合は、大きい倍率であるほどスペックが高いと言えます。
ただ、最大撮影倍率が高い場合、他のスペックが犠牲になる可能性があります。例えば、キヤノンのマクロレンズ(2018年4月10時点の現行品)では、開放F値が最も低いレンズでF2.8です。
人物を撮影したり、風景を撮影したりと、日常や旅行で撮影するレンズにおいては、最大撮影倍率の重要度は低いと思います。
マクロレンズなど、最大撮影倍率が高いレンズを検討する場合は、用途を事前に決めておくことが重要です。
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