証券会社のリテール営業:就職や転職の前に知っておくべき仕事内容、メリット、デメリット

証券会社のリテール営業を辞めて、数年(結構)経ちました。

今の仕事を辞めるつもりは全くないのですが、 常に今までやってきた仕事の振り返りをしています。

将来違う道に進みたいと思うかもしれないですし、 今の仕事がダメになるリスクがゼロではありません。

転職など、仕事の方向を変えたいと考えた時、自己PR(自分の強み)だけではなく、何をしてきて、何を思ったか、何が好きか、嫌いかなど、 しっかり自分を理解しておかないと、失敗すると思います。

この記事では、証券会社のリテール営業の仕事内容、良かったこと、悪かったことを紹介します。

自分の備忘も兼ねていますが、 証券会社のリテール営業への就職や転職を考えている方の参考になればと思います。

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証券会社のリテール営業とは

証券会社にはいろいろな営業部門がありますが、その1つがリテー ル営業です。

金融業界では、リテールというと小口金融業務を指します。大きい駅の駅前に行くと、証券会社の支店がありますよね?支店での営業活動がリテール営業です。

数百万円、時には数千万円以上のお金が動くので、一般の感覚では小口ではないと思うでしょう。

この点については、ホールセール(大企業向け金融)で数千億円動くのに比べれば、すごく小さいと考えましょう。

証券会社の支店には、いわゆる一般職と総合職が在籍しています。

一般職は、支店窓口に来店した顧客への対応を行います。

総合職は 窓口の裏側(または別のフロア)や外出先で自ら営業活動をしてい ます。

就職や転職においてブラックと言われる証券リテール営業は、後者です。

新卒の総合職として入社した場合、9割近くは支店配属となり、リテール営業をすることになります。

証券会社のリテール営業が対象とする顧客

主な対象顧客は個人です。個人の中でも、高齢の顧客が大半を占めます。若い年齢層の人ほど安くて便利なネット証券を使うでしょうから、自然な流れかと思います。

支店によって、顧客の属性は異なります。例えば 、都心だと企業オーナー、元企業経営者、医者などが多くなったり 、都下だと地主が多いエリアもあります。もちろん、普通の会社員や主婦などもいます。

年収や金融資産額が大きいと、優先度が高い見込み客となります。

個人ほど多くないですが、法人や地方公共団体も営業対象になります。

法人と一口に言っても、通常「会社」と呼ばれるような未上場の事業法人をはじめ、宗教法人、学校法人、財団法人などがあります。地方公共団体というのは、市役所や町役場などです。

最初、僕が意外に思ったのは、宗教法人です。言い換えると、お寺や神社です。神聖なイメージなので、リスク資産で運用しているとは想像していませんでした。

でも、宗教法人って、法人税が課せらられないので、儲かっているところはかなりお金持っています。そして、ガンガン運用しています。

規模が大きな法人や地方公共団体は、本社の営業部門が担当していて、リテール営業の対象顧客にならない法人もあります。

取扱商品(金融商品)

リテール営業で販売する金融商品は様々ありますが、株式、債券、 投資信託、保険がメインです。

その中で何に重きを置くかは、会社や支店の方針などで変わってき ます。

僕がリテール営業していた頃は、投資信託や保険に力を入れていました。というのも、投資信託や保険は安定的に収益が上がるためです。

株式や債券については、顧客に売買してもらって初めて収益になります。

例えば、A社の株式100万円を買ってもらったとして、手数料が1%の場合、1万円が収益になります。

一方、投資信託については、販売手数料が得られるだけでなく、保有している限り、小さいながらも収益が日々生まれます。

細かい説明は割愛しますが、端的にいうと、投資信託の残高をどんどん積み上げていけば、残高に応じた収益が得られるので、収益が安定するメリットがあります。

営業スタイル

新規開拓営業にしても、顧客に対する営業にしても、電話か訪問によって行います。

支店に配属された場合、担当顧客がゼロなので、ひたすら新規開拓営業です。電話や飛び込み訪問を中心に、いくつかパターンがありました。

電話営業

僕が証券リテール営業をしていた頃は、本社から見込客リストを取り寄せて、ひたすら電話していました。

僕が新卒で入社したばかりの頃は、支店でも自由に見込み客を検索できたんです。例えば、芸能人の名前を検索すると、住所も申告所得も出て来ました。

でも、個人情報保護法が施行されたため、自由に検索できなくなりました。

取り寄せた見込客リストを手元において、一日200件はざらに電話します。

誰も出なかったり、すぐに電話を切られても、ひたすら電話、電話・・・。200件電話して、1件でもまともに話せれば良い方です。

訪問営業

電話で話せた人へ訪問するのはもちろん、飛び込み訪問もします。

お金持ちが住んでそうな住宅地を片っ端から回って、ピンポンします。反応は電話と同じです。不在の場合や、まともに話ができないことばかりです。

電話と違うのは、ポストに商品案内を入れることができるので、運が良いと電話がかかってくることがあります。

訪問時の移動手段は、都心部なら電車やバス、それ以外だと支店に営業車が数台あります。

多くの場合は一人で訪問しますので、たまにサボることもあります(笑)僕は、晴れた日に車の中で昼寝するのが好きでしたよ。

見込がありそうな先に対しては、支店長や課長などの上司、本社部門のスタッフと一緒に訪問する場合もあります。

セミナー

顧客にセミナーを行って、営業することもあります。

例えば、「今後の株式市場の見通し」みたいなテーマで集客をして 、話のところどころで営業するといった感じです。

ある程度の年次になると、自分がセミナー講師をすることもあります。僕は入社2年半から3年目頃に初めて講師をしました。

接待

顧客と食事に行くことも、たまにありました。僕は夜に接待にいくのが嫌いなので、ランチで接待しました。

自分の担当顧客の中でも、仲が良い顧客を誘うのですが、その時に友人も連れて来てもらいました。

毎回上手くいくわけではないですが、顧客の友人に口座開設してもらって、商品購入に至ったケースもあります。

証券会社のリテール営業の悪いところ・デメリット

証券会社のリテール営業をしていて、嫌だったこと、辛かったことなど、もう絶対に戻りたくない点を紹介します。

販売可能な金融商品が固定されている

金融市場には無数の商品が存在するため、理論上は売ることが出来る金融商品はいくらでもあります。でも、自分が売りたいと思った商品を売れる機会はほぼありません。

なぜならば、「今月は〇〇投資信託を10億円売る」などの販売目標が課されるためです。

証券会社の構造上、ホールセール部門が発行企業から株式や債券を引き受けて来たり、商品部門が新たな投資信託などを企画・組成したりします。

リテール営業は、それらの株式、債券、投資信託の販売がノルマ化されるわけです。とにかくノルマ達成が最優先事項のため、支店や課でノルマを達成できない限り、自分だけ売りたい商品を売ることができません。

ノルマをクリアすれば良いと思ったあなた!ノルマをクリアするだけで精いっぱいなので、自分で好きなものを売ることができる余力なんてありません。

売らないといけない金融商品に魅力がない

上述した通り、基本的には指示された金融商品を売るしかありませ ん。この売らないといけない金融商品が魅力的ならまだ良いのですが、 そうでない場合が多いです。

例えば、上場企業Aが新規に発行する債券が金利1%だとします。一方、上場企業Bが既に発行して流通している債券の金利が1.5 %だとします。もし、A社もB社も、金利以外の条件(倒産リスク 、満期までの期間など)が同じなら、B社の債券の方が金利が高い のでお得です。

でも、自分が所属している証券会社のホールセール部門が、上場企業Aから債券を引き受けてきたとすると・・・。証券会社は引き受けた債券を売り切らないといけませんので、リテール営業の現場では 上場企業Aの債券を売るしかありません。

このように、相対的に合理性が乏しい商品や売りたくない商品を売らされることになります。

僕は、「この商品、自分の家族や親友に自信をもって売れないや」と思うことが多々ありました。

結果的に価値が無くなる商品を売ることが多々ある

指示された金融商品を売るわけですが、自分が売った商品(金融商 品)が全く役に立たないことが多々あります。

証券会社が扱う株式や債券などは、絶えず価格が変動しています。儲かることもありますが、損することもあります。

製造業、サービス業を問わず、商品を購入した人が損することって 、無いですよね?「買って失敗した・・・」と思うことはあるかもしれませんが、買ったものの価値がマイナスになることってありません。

購入したものに不備や故障があればマイナスですが、多くの場合は 交換してもらえます。

一方、証券会社で商品(株式等)を購入すると、手数料という費用を支払った上に、買った商品の価値がマイナスになることがよくあります。言い換えると、「お金を払って、損失を買う」ことがよくあるということです。

預金と違うので当たり前なのですが、実際にこのことを体感すると、普通ではない世界にいることを実感します。

営業上の工夫(メール、資料作成など)ができない

売りにくい商品を何が何でも売らないといけない。ならば、売れるように、いろいろ工夫したくなるものです。でも、証券リテール営業の現場で は、創意工夫が出来ません。

まず、メールを顧客に送ることはできません。メールの方が効率的に営業ができる部分もあると思いますが、許されません。

営業時に使う資料については、本社の商品部門が作成する資料を使うしかありません。資料への加筆はもちろん、ページを並び変えるのもダメ。商品部門が作る資料は綺麗なんですが、 現場で使いにくいことが多々ありました。

基本的なビジネススキルが身につかなない

上述のメールや資料作成ができないというのは、言い換えると、一般的なビジネススキルのうち、身につかないものが多いとも言えます。

電話や訪問で、準備された資料を使って話をするので、自分で文章を考えるのが難しいですし、考えた内容を形にするPCスキル( ワード、エクセル、パワーポイント)がほぼゼロでした。

僕は転職直後、メールすらまともに書けませんでしたし、人並みの提案書も作れませんでした。

ノルマ・数字が出来ないと詰められる

売りたくない商品を工夫もできずに売らされるので、当然売れません。ノルマ達成に向けて、先輩達は無理やり売っていました。 無理やり頑張っても、売れない先輩もいました。

数字が出来ていないと、課長から「どうなってんだ?(怒)」、「どうするんだよ?(怒)」、「いつまでにやるんだよ?(怒)」と延々と詰められます。

「〇〇までに、〇円販売します」と言うまで、詰められます。答える時に、小さい目標数字を言おうものなら、また激怒され・・ ・。結局、出来もしない目標を言わされ、ノルマ化される。日々、この繰り返しです。

支店のパソコンでは、リアルタイムで営業状況が把握できます。それを見ている課長から、30分毎に詰められる時もあります。

殴る蹴るなどの物理的な暴力はなかったですが、正気の沙汰じゃないです。

無能な管理職が多い

上司の話す内容や働き方によっては、詰めも多少は許容できると思うんです。

ところが、 改善に向けた具体的なアドバイスが無い上司が多かったです。

仕事といったら、 パソコンに映るニュースとか株価を見ることくらいしかしないのに 、部下の数字の状況を見て、怒って罵声を浴びせるだけという人は多かったです。

今は世代交代が進んで、多少は良くなっているかもしれませんが・ ・・。

全国転勤

大手証券会社の場合、多くの人が勤務地の変更を伴う転勤があります。僕は運よく、証券会社を辞めるまで、転居を伴う異動がありませんでした。

証券会社を辞めて数年後に結婚し、その後子供が生まれたことで、 改めて全国転勤は無しだなと感じています。

まず第一に、家族と一緒にいたいです。子供なんてあっという間に大きくなって、親から離れてしまいます。子供が一番かわいい時期に全然会えないなんて、考えられません。

あと、転勤で辺鄙なところに行きたくないというのもあります。

証券会社のリテール営業の良いところ・メリット

悪いところの次に良いところなのですが・・・。悪いところに比べるとすごく少ないです・・・。

初対面の人へ能動的にアプローチできるようになった

僕は社会人になるまで、知らない人と話すことが苦手でした。何を話したら良いか、全く分からなくて。

でも、証券会社でリテール営業をするとなると、話しするしかない んです。

デスクワークなんて、注文伝票を書いたり、顧客データを見るくらいしかありません。当然、そんなことしてても、1円も稼げない。だから、顧客に電話するか、訪問するしかない。

しかも、新入社員は顧客がゼロなので、見知らぬ人に電話や飛び込み訪問をすることになります。

話を聞いてもらえる可能性がゼロに近いとわかっていながら、話しかけないといけない。これは辛かったです。

ところが、気付いたら、そんなに話すことが苦手でないことに気付いたんです。昔の自分からしたら、ホント衝撃です。慣れってすごいですね。今は、仕事をする上で、初対面の人と話をするのは苦にな りません。

プライベートでも、昔に比べて嫌な思いをすることは無くな りました。

実績のみで評価。年齢、性別が一切関係ない

年齢についてですが、年下の上司はざらにいます。年功序列という概念はないです。はたから見ていて、年下の上司と年上の部下はやりにくそうでしたが・・・。

僕は脱落者ですが、若くして上に行きたいという野望がある人には、証券リテール営業は合っていると思います。実績が上がれば希望の部署に異動させてくれるかもしれません。

性別も関係ないです。僕自身は男なわけですが、女性が差別されない職場は、見ていて気持ちが良いです。

お金や経済に詳しくなれる

生きていく上で、お金の話は絶対に避けて通れません。そして、お金は経済に密接に関わっています。

自分のお金を増やす、または減らさないためには、どうしたらよいか。置かれた状況によって違うので、正解は一つではないですが、 自分でしっかり考えて判断が出来るようになれます。

例えば、最近は以前に比べると上場企業が配当金を引き上げることが多くなってきていることをご存知ですか?

まず、それを知っているか、知らないかの分かれ道があります。知っているのならば、どのような会社の株式が狙い目なのか?という話になります。

そして、株式投資するとなると、リスクをどう理解して考えるかという話になります。

以上のようなことを、人任せではなく、自分なりに考えていく力が身に付きました。

これは、他人からの美味しい話に騙されない力とも言えます。

年収や福利厚生が良い

毎月の給料はもちろん、ボーナスも大きな額が出ました。

福利厚生は家賃補助が大きかったですね。家賃の7割程度を会社に 負担してもらえました。

以上を合計すると、若くても結構ゆとりある生活が出来ます。

まとめ

就職や転職先として、証券会社のリテール営業がおすすめか否か。 僕の答えは、おすすめではありません。

「個人と個人の間で、人間味などを生かして、人情で仕事がしたい 」という人には合っているかもしれません。

「厳しい世界と分かっているけど、自分なら何とかなる。 何とかのし上がる」と思っている人も、改めてよく考えた方が良い です。

同じようなことを言っていた僕の同期は、1年もしないで辞めました。本当に厳しく、ストレスが多い世界です。

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